このレンズはこれまでのクラシック風レンズとは一線を画す素晴らしいレンズです。
HELIAR Classic 50mm f1.5の仕様
レンズの物知り度 | レンズの希少度 | 描写の好み度 |
★☆☆☆☆ | ☆☆☆☆☆ | ★★★★★ |
レンズ名 | Voigtlander HELIAR Classic 50mm f1.5 |
メーカー | COSINA |
焦点距離 | 50mm |
開放f値 | 1.5 |
マウント | VM(ライカM) |
フィルター径 | 49mm |
最短撮影距離 | 0.5m |
タイプ | 滲み(Hektor, Heliar改型) |
特徴 | 現代に生まれた真のオールドレンズ |
製造年 | 2021年- |
価格 | ★☆☆☆☆ |
HELIAR Classic 50mm f1.5 の特徴
このレンズの特徴を一言で言えば、レンズ1本に平気で100万円かけるオールドレンズマニアがメインで使いたくなる程の懐の深さを持っているレンズです。
はじめにHELIAR(ヘリアー)というレンズについてざっと理解をしたいと思います。
このHELIARは3群5枚が基本で、その祖先は3枚玉のトリプレット発展系として1900年に考案された非常に基本設計が古くに生まれたレンズタイプです。
しかしこのトリプレット系の3群構成のレンズは、レンズ口径を大きくしづらいという欠点がありました。
3枚玉は特にレンズが高価だった頃は物量が少ないために安価であること、構成枚数の少なさからくる抜けの良さやコンパクトさが魅力でしたが、時代が経つにつれて自由度の低いトリプレット系は特に交換式レンズに採用されることは無くなって行きました。(レンズ一体型ではコンパクトさから割と使われる)
しかし、日本のコシナがフォクトレンダーのレンズを生産するようになり、その伝統的なヘリアーレンズも良さを失う事なく継続的に開発されてきました。
その過程で、狙ってかは分かりませんが、このヘリアーも3群6枚というライカのヘクトールと同じレンズ構成を採用するようになりました。
ここまでがヘリアーの歩みとなりますが、2021年にこのヘリアータイプで生まれた、HELIAR Classic 50mm f1.5はその3群構成では非常に難しいとされてきた大口径化を遂に実現したレンズです。
ヘリアーという名こそついていますが、これはCOSINAがLEICAに変わって世に送り出したHektor 50mm f2.5の後継に思えてなりません。
コーティングは紫に近い色のモノコートです。これまでのコーティングと変わっている気がします。
次いで外観です。
この樽型のデザインは様々なレンズがモデルではないかと言われていますが、私の知る限りでは戦前のドイツの極一部のレンズに見られたもので、非常に優雅で高級感のあるデザインだと思います。
これまでもクラシカルなデザインのレンズはありましたが、ブラックペイントx真鍮の綾目ローレット加工というデザインは初めてだと思います。
黒塗りとニッケルメッキの組み合わせは最近のコシナさんの得意技ですが、クロスローレットで先端までブラックペイントでよりクラシカルなデザインに仕上がっています。
なお、材質はブラックペイントですが、真鍮ではないのでこれが剥がれてくると銀色の素地が露出してくるものと思います。
(ニッケルメッキ部のみメッキのため真鍮が使用されています)
ペイントも、あえて厚めに塗って文字周りのこんもり感を作っているというのですから、デザインとしても非常に満足度が高いものと思います。
ただしやや個性が強いのも否めず、あえて誤解を生む言葉を使わせて頂くと”オタクっぽい”感じを受けます。(いい意味で)
描写
このレンズは、開放でも大きく描写の破綻はありせんが、全体にヴェールをまとったような淡い滲みがあります。
ピント面と、背景とのコントラスト差(メリハリ)は非球面レンズを使ったような立体感はありませんが、柔らかく見ていて心地よいです。
むしろ、このレンズ構成にも関わらず、開放からかなり使える画質に仕上げているなぁと感じました。
また、非常に注目されているボケ味ですが、これも素晴らしいです。
オールドレンズ好きの方の間で3群構成でバブルボケになるのでは無いかと期待が寄せられていましたが、このレンズも球面収差特性からいわゆるバブルボケっぽくなります。
ただし、50mmという画角と口径から、口径食はあります。画面全体にシャボン玉を浮かせたい人には75mm以遠の方が良いでしょう。
このフチのくっきりしたボケは、点光では個性的なバブルボケになりますが、高周波のボケではザワつきの原因(所謂二線ボケ)になります。
この点、このレンズはボケの煩さが比較的抑えられていると思います。
また、このレンズの大きな魅力のひとつが最短で0.5mまで寄れるということです。
Hektorは最短は1mで73mmに至っては1.5mでしたから、このヘクトール型で近接時の画質が見られたものなのかという点も一つのポイントです。
この点も、素晴らしいと思います。
さらに言えば、最短に近づくにつれてボケも大きくなっていきますから、よりボケが柔らかく調整することもできます。
このレンズの素晴らしいところは、収差のバランスです。
相当無理な設計であったと思われますが、周辺の画質が見事にコントロールされています。
描写の美しさにプラスに作用するのは球面収差です。
その他の収差はどちらかといえば、画質を低下させる要因となりますが、適度に乗った収差はやや古めかしい情緒的な味わいに作用すると思っています。
このレンズは多少は回りますが、所謂ぐるぐるボケは出ません。勿論オリジナルのHektorも出ません。
そのあたりのバランス感覚がこれまでのClassicシリーズよりもかなりオールドレンズ好き寄りのチューニングになっています。
このレンズは、もちろんカラーでもとても良いですが、デジタルに現れるパープルフリンジを特に意図して消されていないことからも、モノクロ向きと言えます。(余計なフリンジが出ようとも余計な手を加えず描写本来の美しさを優先したと言えます)
遊びじゃないオールドレンズ
オールドレンズは癖玉だとか面白い、遊べるなんて表現が頻繁に用いられます。
しかしこのレンズは、ボケは回らないし、滲みも口径の割に程よく抑えられています。
これまでのオールドレンズは安い割によく写るとか、現代レンズには撮れない癖のある写真が撮れるといったそういった捉えられ方がメインでした。
しかし、今では一部のオールドレンズは価格が数倍に高騰し現行の最新レンズを凌ぐ価格で取引されるようになりました。
そんな世界で認められているオールドレンズの価値は勿論安さではないし、癖のある写真を撮りたいからではありません。
それは現代のレンズには無い収差の残存した光学系から生まれる、描写の美しさから来ています。
そしてこのレンズに話を戻しますが、ライカのHektorは私も愛用しておりとても人気のあるレンズですが、これまでにこの3群構成の50mmレンズといえばHektorの50mm f2.5というのが現実的なスペックでした。
しかしこのレンズはf1.5という大口径を実現しました。これは最新のガラスとコシナの飽くなき探究心の賜物だと思います。
このスペックのレンズがもし1930年代に生まれていたとして今のオールドレンズブームに乗っかっていたとすれば、その価格は100万,200万は下らないこと間違いありません。
このレンズは、これまでのフォクトレンダークラシックシリーズや、ライカの復刻シリーズ、他社のレンズと比べてもそれとは全く別の視点で踏み込んだレンズです。
まだ2日しか使っていませんがこのレンズ、ライカのオールドレンズよりもいいかも、なんて思い始めていたりします。
コメント