MQ60cの備忘録です。
当初はこのアンプを完全に見た目で選んだのですが、よくよく中身を見てみると設計上際どい点も多く、真空管初心者にはなかなかにキツイアンプだったようです。
MQ60は最期に開発された国産オーディオ用真空管であるというファンも多い50CA10を採用したパワーアンプで、SQ38Fのパワー部をごっそりセパレート化したような構造をしています。
そして、その裸特性の優れる50CA10に着目し、NFBを廃した無帰還PPアンプとして開発されたのがこのMQ60 Customです。
市場で見かける頻度はMQ60の1/10以下ですので、50CA10シリーズの中ではややマニアックなアンプともいえます。
SQ38F,MQ60シリーズ同様の問題は相変わらずで、出力段の50CA10は既知の通りバランス調整回路の部品が安物を採用していたので長期的安定性がとても悪いアンプだったようです。
そして定格を超える勢いの460V程度のプレート電圧でフルドライブされている為、出力球やトランスが経年でバランスが崩れて音が歪んだりお釈迦になっているものがとても多いのも残念な特徴です。
また、このアンプはNFBが無いので、2段目の球の取替時にはACバランス歪の調整を丁寧に行わないといけません。
しかし、面白い点もたくさんあります。
まず、PPでDF2以下という非常に弱い駆動力でありながら定格出力は25Wというアンバランスさが面白いアンプです。
普通DF2では高能率なスピーカーでないとなかなかその特性を楽しめませんが、例えばALTECなんかで25Wも出力したら家の屋根が吹き飛んでもおかしくありません。
これだけの出力があれば、そこそこの能率のSPでも十分に鳴らせるし、無帰還で裸の真空管の音を低いDFできつくない聴感で楽しめそうです。あくまでPP回路ではありますが..
また、中身を見て分かりましたが、このMQ60Cの電源トランスはわざわざトランスを通して50CA10のヒーター電源を供給しています。
通常のMQ60やSQ38FDでのヒーター電源は直接コンセントからきている端子にかましているだけなので、出力管へのノイズを気にしての設計かもしれません。
私では感じ得ないような色々なLuxの拘りがこのアンプには詰まっているのだと思います。
修理
私は購入当時真空管アンプをあまり扱いなれていなかったので、修理・改造品ということで購入しました。OPTについては故障したのか、他社のものに載せ替えられていました。
しかしながら、真空管アンプにとってのOPTは要です。
MQ60(Luxman)を使う最大の魅力と言っても過言でないOY15-5は必須要件ですので、良品の純正トランスに載せ替えることにしました。
それと、このアンプで面白いのが自己バイアス化されている点で、結構な費用をかけて改造されたとのことでした。
確かにネット上では自己バイアス化はかなりニーズがあるようですが、改造された個体は殆ど見ません。
これにより過電流の防止に加えプレート電圧を50V程度低下させることができるので、プレート損失の低減(出力低下&球のロングライフ化)を計ることができ、MQ60シリーズの欠点をかなり克服できます。
動作状況は、カソード抵抗は1kΩでB電源電圧450V,電流は40-45mA程度でした。
アンバランス電流について、本来ばらつきの大きい50CA10と許容値の小さなOY-15-5という組み合わせに対応すべく行われていると思われる固定バイアス回路を取っ払ってしまっています。
しかしながら、もちろん球の組み合わせにもよりますが、適当に挿しても概ねアンバランス電流2mA以下で動作し、ペアを探すと0.2mA程度まで低減できましたので、全くもって心配不要でした。
その他にもCR交換、ブロック電解コンデンサの交換、信号劣化になると酷評されるインピーダンス切り替えスイッチはトグルスイッチで4と8オームの2択化、電源スイッチはたまに接点が残って電源が切れなかったのでNKK製に、SP端子交換、回路は自己バイアス周り以外はオリジナルのままですが、部品は新しいものにするため50年前のオリジナルの状態からはずいぶん手を加えています。
整流ダイオードについてはトランスB出口が360Vとかなり高いので、当時のものと比較してあまり良いものを使ってしまうと整流後の電圧が上がりすぎるかもしれません。
というわけで素晴らしいアンプができしばらく満足して使っておりましたが、バイアス調整が不要である裏返しでいじり甲斐が減ってしまったことや、ボンネットを子供が開けて貴重な50CA10を破壊されそうになってしまったので、残念ながら売却してしまいました。
真空管が見えるタイプのアンプは子育て中はやはり厳しいようです。
パワーアンプは比較的回路がシンプルですが、手間(というより修理費用)は結構かかるんだなということで備忘録でした。
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