Auto Switar 50mm f1.8 の仕様
レンズの物知り度 | レンズの希少度 | 描写の好み度 |
★★★☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★★★ |
レンズ名 | Auto Switar 50mm f1.8 |
メーカー | Kern Aarau |
焦点距離 | 50.0mm |
開放f値 | 1.8 |
マウント | ALPA |
フィルター径 | ALPA A |
最短撮影距離 | 0.5m |
タイプ | Switar(5郡7枚) |
特徴 | なだらかで美しい滲みとボケ |
製造年 | 1955年頃 |
価格 | ★☆☆☆☆ |
Auto Switar(オートスイター)50mm f1.8 AR
スイスのシネレンズメーカーのKern Aarau(ケルン アーラウ)製 ALPA用レンズです。
結構オールドレンズ好きの中では知名度の高いレンズだと思います。
アルパとケルン社 スイター50mm f1.8について
各社とこのレンズについて、忘れてしまう前に簡単にまとめておきたいと思います。
まずはALPA(アルパ)について。
アルパはウクライナのジャック・ボゴポルスキー(ボルスキー)が設計し、時計産業でも有名なスイスにある時計用部品メーカーのピニオン社が製造していたカメラです。
ALPAはレフ機にしては類を見ない超ショートフランジバックで、レンジファインダーとウェストレベルファインダーを併せ持つ不思議なカメラです。
次期モデルでは、ファインダーが斜め45度になり、そして最終的にはレンジファインダーも無くなりレフ機になります・・・使いづらいですが。
価格は販売当時超高額だったそうで、年間で1000台程度と生産数は非常に少ないものでした。(それなのに45年も事業が継続されたそうです)
その希少性から、2000年頃のクラシックカメラブーム時には非常に人気があったそうです。
また、レンズについてアルパに供給されるレンズも非常に吟味された個性的なものが多く、サプライヤーはドイツのシュナイダー、フランスのアンジェニュー、オランダのオールドデルフト、そしてこのケルンなどとシネレンズメーカーも多く、今見てみるとシュナイダー以外は本当に売る気があったのかと疑いたくなるようなラインナップです。
蛇足ですが、その中身もスイス時計のようにシャッター廻りの歯車が非常に美しく、非常に凝った作りになっているようです。
おかげでオーバーホール費用はライカの倍はかかりますね。
次いでKern Aarau社についてですが、ケルンはピニオン社と同じスイスにあり、シネレンズを中心に製造している光学メーカーです。
ケルンが35mmフォーマットをカバーするスチル用レンズを供給したのは、後にも先にもアルパ用のスイターのみでした。
アルパがスチル用のレンズを開発したのには、ボルスキーはボレックスというシネカメラを生み出したことも有名でその繋がりでもあるのだろうと言われています。
このSwitarは大まかに4世代に分類されます。
名称 | レンズ構成 | 特徴 | 製造数 | |
初代 | Switar 50mm f1.8 | 5郡7枚 | 絞り羽根が15枚 | 1,526 |
2代目 | Auto Switar 50mm f1.8 | 5郡7枚 | 自動絞り機構、絞り羽根は9枚に | 5,785 |
3代目 | Macro Switar 50mm f1.8 | 5郡7枚 | 約0.3mの近接撮影に対応 | 10,329 |
4代目 | Macro Switar 50mm f1.9 | 5郡8枚 | 光学系変更 | 6,303 |
初代のスイター、そして2代目で絞り込んだときのファインダーの暗さを改善するためにプリセット絞り機能が付いたオートスイター。
3代目からはマクロスイターとして、よりレンズの繰り出し量を増やしたモデルになり人気があります。
4代目はレンズ構成が若干変更になり、f1.9とスペックが変更となりました。コストダウンと言われることもありますが、ガラスが増えているのでその説は怪しく、実際描写はf値が僅かに暗くなった代わりに開放での性能が大きく向上しています。
アルパのカメラ自体が42000個程度しか生産されなかったと思うと、このSwitarは超ベストセラーレンズといえます。
なお、販売価格が高価だった理由は、レンズの価格に糸目もつけないシネ業界に準じたアポクロマート仕様のレンズであったからと言われています。
アポクロマート仕様のレンズは通常のレンズに比べて当時はコストが10倍かかるとも言われていたみたいですね。
シネマスクリーンのように、フィルムから拡大率が非常に大きい世界では色収差はとても重要でしたが、スチルカメラでアポクロマート仕様が必要だったかと言われると、Kern社の拘りだったのだろうと思います。
アポクロマートレンズを標準レンズとして採用するALPAも肝が座っています。
アルパレンズはアダプターで化ける
アルパはボディが特殊ですが、レンズはアダプターを用いれば現代では多くのカメラで楽しむことができます。
フランジバックはライカMとニコンなどの一眼レフマウントの中間くらいで、かつレンジファインダー機構を備えていたこともありライカMではなんとアダプターを介せば50mmレンズは距離計まで連動して使用することができます。
内側のシルバーの部分が、レンズと連動して移動量をボディに伝える部分です。
また最短焦点距離が短いので、ミラーレスカメラならばその魅力を余すところなく使うことができます。
私が買ったのは中国製の安いアダプターですが、ちゃんと距離系連動機構がついています。
最初は距離連動がずれていたのですが、よく観察すると調整できる構造となっており無事1m〜無限遠まで連動するようになりました。
レフ機用レンズですが、ショートフランジバックの為アダプターも薄くM型ライカにつけても違和感は全くありません。
描写
以下すべて開放での撮影です。
機材:M10-D + Switar 50mm f1.8
夜は明暗差が大きくなるので、収差が可視化されやすいです。
普通のオールドならもっと暴れるところ、非点やコマはかなり抑えられている印象です。
暗部の表現が良いですね。椅子の質感はすごく良く出ています。
信号は盛大に滲んでいます。球面収差は開放ではそれなりに大きいですね。
なぜか木に絡んでいたear pods。白はやはりよく滲みます。
前ボケ、後ボケどちらもすごく美しいです。
これなんかは立体感が最高です。木陰の雰囲気がよく表現されています。
このコントラスト差なんかはグッとくる描写です。ボケもキレイです。
そしてモノクロ
モノクロになると球面収差もまた雰囲気が変わります。
カラーでは滲みは目立ちますが、モノクロではなんだか古く懐かしい感じになるので個人的にはモノクロの描写はみなさん誰しもが美味しいと感じられるのではないでしょうか。
スイターは買い。ライカで使うならむしろマクロでないモデルもアリ。
これは随分上品なレンズだと思います。
ハイライトのにじみ、美しいボケはライカでいえば35mmの球面ズミルックスのようです。
そして、ボケへのトーンが非常に美しい。
そんなオートスイターが約10万円、マクロスイターで20万円で買えます。
私のようにライカのレンジファインダーで使う場合は、距離系連動はマクロの分はあまり必要ありません。
むしろコンパクトになる分、M型との相性は良いのではないかとも思っています。
ちなみに初代のスイターがアルパボディのシャッターボタン用のアームが無くて一番コンパクト。
かつ絞り羽根も15枚と、9枚のオートスイターよりも優れていて、ヘリコイドの向きもライカと同じです。
ただし製造数が1000本強とあまり目にする機会がないので、価格はオートスイターの倍以上するのですがそちらのほうが欲しいですね。
スイターは元々超高額レンズということを踏まえれば、他のオールドレンズに比べると価格上昇はまだあまり起きていないように見えます。
2000年頃のクラカメブームの時よりも安く買えるということは、後に価格が急騰したライカのレンズを思い出せば今が買いということですね。
コメント
コメント一覧 (4件)
前のめりさん、こんばんは。いつも楽しく拝見させてもらっています。
私もKern Auto Switar 50mm F1.8と前のめりさんと同じアダプターを購入して、M10-Pに装着して使っているのですが、距離計連動だとどうしても前ピン気味になります。
ライカ純正Mマウントレンズだと距離計連動はバチピンなのでカメラ自体には問題なく、おそらくアダプター側の問題があると思っています。
前のめりさんのお話によると、このアダプターは距離計連動を調整できる機構になっているとのことですが、いくら触っても調整できる箇所が見当たりません。
お手数ですが、アダプターのどこを触れば調整できるのか、ぜひご教示頂きたいです。
よろしくお願い致します。
コメントに気づかず、返答遅くなり大変申し訳ありません。
全く同じものかはわからないのですが、内側の黒いカムと当たる部分のボディ側が同じ黒いロックできるリングになっているので、そちらを緩めてあげるとカム側の部品を回して位置調整できるようになります。
言葉だけだと分かりづらいのですが、黒い輪っかを回してみてください。
はじめまして。
実は同じ中華アダプターを使ってるんですが、距離計調整のとこが分からず困ってるんです。
どちらを触ったらいいんでしょうか?
コメントありがとうございます。
上記コメントと同様になりますが、内側の黒いカムと当たる部分のボディ側が同じ黒いロックできるリングになっているので、そちらを緩めてあげるとカム側の部品を回して位置調整できるようになります。
お試しいただけますと幸いです、