何回かに分けて、写真をプリントし鑑賞するということについてご紹介させていただきたいと思います。
写真をプリントするなんて当たり前のことでは…?
と思う方もいらっしゃるかと思います。
確かに家族写真こそアルバムに纏めている方も多いと思いますが、スナップやポートレイトについてスマホの画面止まりになってしまっている方は結構いらっしゃるのではないかと思っています。
私自身これまで機材には湯水の如く資金を注いできましたが、「飾る」という行為に対しては少し大きく印刷して普通のフレームに入れて飾るといった程度でした。
しかも、テカテカした光沢紙や、半光沢、絹目といったスタンダードな写真用紙では、アルバム写真止まりだなという印象であまりプリントの良さがわかっていませんでした。
しかしカメラやレンズというのは、iPhoneのカメラと違ってプリントした写真を前提に作られていますから、写真は印刷しないと勿体ないなと思い立ったのですよね。(今更?)
ということで、今まで自分で写真を印刷したことの無い向けに、部屋に飾りたくなるような写真作品やコンテストにも使える写真プリントについてご紹介したいと思います。
しかし、いざ真剣にやってみるとこれが難しく奥が深いんですよね。
今回はプリンター、写真用紙、紙とモニターの違い、そして写真作品について簡単にご説明したいと思います。
せっかく高いお金払って買った機材で撮った写真なのだからアルバムにいれるだけでなくて額縁に入れてオシャレにお部屋に飾ってみちゃいましょう!
写真作品のためのプリンターについて
写真を紙にプリントするためには、一般的には、
①ネガフィルムを暗室で引き伸ばし機を用いてプリント
②デジタルデータをインクジェットプリンターでプリント
という手法が用いられますが、今回ご紹介するのは後者のプリンターを使ったプリントです。
引き伸ばし機については恥ずかしながら経験がありませんので、いつか挑戦してご紹介できればと思っています。
プリンターは意外と選択肢は多くありません。
メーカーの違い
メーカーは存知と思いますがEPSONとCANONの二者択一です。
どちらもしのぎを削り合って開発していますから、大きな違いはないと思っています。
各メーカー、各モデルで特色があるので一概にどちらとは言えないのですが、私感ではEPSONを使われている方が多い気がします。
EPSONでは後述するインクについて顔料だけでなく染料タイプにも力を入れていたり、エコタンクといった経済性にも優れたプリンターを発売しています。
設定も結構細かく追い込めるような印象を受けました。
しかし、一方で給紙エラーや故障についてはEPSONの方が高い気がしていて、プロ用のプリンターであればゆうに10kgを超えるものもありますから修理になってしまったら大変です。
一方のCANONについては、特に黒に力を入れているように感じます。
キャノン独自のクロマオプティマイザーという透明なインクが搭載されている機種では、光沢系の用紙を使用するとより黒が引き締まり深い階調を得ることが出来ます。
とにかくモノクロ!という方であればキャノンがおすすめです。
という感じですから、実際に店頭で見ていただいて、デザインや経済性、インクのこだわりとかで決めるのが良いのかなと思います。
(どうしても他人と違うものがいいという方は、HPもあります)
なお、私はキャノンの大型機と、エプソンのコンシューマ機を使っています。
では、実際に選ぶ上で気にすべき点は、個人的に大きく分けて3点あります。
対応インク
ひとつめはインクの種類です。
大きく分けると染料インクと顔料インクという2種類のインクがあります。
違いとしては、その名の通りで色成分が染料か顔料かの違いです。
染料インクは液体に溶解しており紙に染み込ませ色を付け、顔料インクは微粉が液体と混ざっており紙の上に色を乗せてプリントします。
一般的には染料より顔料のほうが高価で写真作品との親和性も良いのですが、あくまで一般的にですので一概にも言えない所です。
例えば、光沢紙や一部用紙では染料のほうがより発色良く光沢感が出るのでメタリックな質感をよく表現できたりしますし、一方では写真用紙のよってはそもそも顔料インクにしか対応していないものもあります。
どちらが絶対いいというものではないので、各社プロタイプでも染料顔料両方ラインナップされています。
このインクについては写真用紙によって選ぶことが望ましいのですが、顔料インクであれば光沢、マット紙共にオールラウンドにこなすことができるのでおすすめです。
一方で、染料プリンターは特に高光沢においては圧倒的な表現力を持っているので、光沢のある写真用紙をメインで使っていきたい方は染料プリンターがおすすめです。
インクの数は概ね6色から10色で多いほど高価になり色表現の幅が広がってきますが、本体代だけでなく印刷コストも増加傾向にあります。
エプソンではカラーは染料、黒は顔料とハイブリッドタイプもあり、画質もよく更に印刷コストもかなり低いとのことで、経済性や通常のプリンターとしても使いたい方にはそういったプリンターも使いやすいかもしれませんね。
私が使っているモデルは旧製品ですが、Canon Pro-1という12色顔料インクのタイプで、モノクロの階調にとても強いのが特徴です。現在では12色インクのコンシューマー向けプリンターは無くなってしまいました。
対応用紙
2つめのポイントは対応用紙です。
用紙といっても大きさと厚みを考慮する必要があります。
まず大きさですが、最大印刷サイズがA4,A3ノビ,A2ノビとありますが、どれくらいのものを印刷したいかで検討すれば良いと思います。
大きく印刷できるほどよいと思いますが、その分本体の大きさもも大きくなりますので、かなりの面積を専有します。普通のプリンターの感覚で店頭に行くと引くレベルですから、よく自室環境と相談しましょう・・。
個人的にはA4かA3ノビのものが個人利用としては良いと思います。
通常はA4でも六切程度の大きさがあるので十分かと思いますが、実際比べるとこれくらい違いますから、やはり壁が空いていれば大きなA3ノビの写真のほうが映えると思います。
また厚みについては、ファインアート紙への対応が肝になります。
通常の用紙に比べてかなり分厚く普通のプリンターでは印刷できません。
基本的にはエプソンキャノン共に写真用高画質プリンターであれば問題なく対応していると思いますが、コンパクトで安めのプリンターだと対応していないことの方が多いです。
更には、ファインアート紙でもものによって0.3mmのものもあれば、1mm近いものまで様々で、印刷時にヘッドが紙に擦れてしまうという事があります。
そういったときにヘッドの高さを調整できたりすると、より用紙の自由度が高まります。
もしメーカー純正紙を使いたい場合には、他社のプリンターでは色が上手く出ないのでEPSONの紙はEPSON,CANONはCANONで使うことだけは守ったほうが良いと思います。
プロ機?家庭用?
最後に3点目ですが、これはプリンターというよりは環境についてなのですが基本的には上級グレードのプリンターはPCからの印刷を前提に作られています。
今どきはPCを持っていない方も多くいらっしゃると思いますが、そういった方はPC不要のスタンドアロンもしくはスマホやタブレットから印刷できるようなプリンターを選択する必要があります。
なぜPCでの使用が望ましいかというと、写真にこだわる場合には色再現という点について強く意識しなければなりませんが、不要な用紙もありますが基本的には各用紙毎にプロファイル(紙質や紙色によって色がモニターと異ならないように補正する設定ファイル)を適用する必要があります。
もしかしたらプロファイルが直接プリンターにインストールできるものもあるのかもしれませんが、私の知りうる限りでは、用紙メーカーのHPに飛んで、Photoshopなり、印刷用プラグインだったりでプロファイルを適用して印刷する必要があります。
このプロファイルについてもある程度のグレード(プロ機やミドルハイ以上)でないと提供されていない場合がほとんどですので、プロ機であれば問題ありませんが、ミドルクラスのプリンターを検討している場合には用紙メーカーのICCプロファイルの対応機種を確認してみてください。
上級機のプリンターなんていらないよ、とお思いの方。
どちらも同じ用紙で、上がPro-1,下がエプソンの複合機で印刷したものです。
色も違うし、スジとかムラがあるし、精細さも全くプロ機には及びません。
個人的に使いたいプリンター
例のごとく独断と偏見でもし私が今新品を買うなら・・という機種をピックアップしてみました。
キャノンでは最近プロ機が新しくなり、ラインナップもわかりやすくなりました。
顔料モデル
染料モデル
で、すみませんエプソンの上級機は分かりません…
https://www.epson.jp/products/photoprinter/?fwlink=productstop_59
見ていた中で良いなと思ったのは下のモデルで、染料タイプなのですが黒が顔料になっています。
エコタンクで1枚あたりの印刷コストもかなり低くなり、かつ複合機なのでスキャナ、スタンドアロン印刷も対応しているのでおすすめだそうです。(写真の好きな方から聞きました)
写真作品のための用紙について
写真用紙については基本は自由です。表現には成約はありませんからね・・!
普段イメージする写真といえば、テカテカとした光沢紙を思い描くと思いますが、写真作品用の所謂「ファインアート紙」では竹からできた紙や和紙だってあります。
しかし、気にすべき点もいくつかありますのでさらっと種類を解説しつつ見ていきたいと思います。
一般的な写真用紙
・光沢紙
よく私達が見る光沢感のある、所謂写真ですね。
発色(色域)や解像感が素晴らしく用途によっては抜群の美しさを持ちます。
展示という観点から見ればスポットライトなどのの反射で見づらくなる可能性があるので注意が必要です。
・半光沢・絹目
光沢紙に比べ、表面が少しザラッとしており落ち着いた光沢感があります。
光沢紙はいかにも写真という感じになりますが、この半光沢紙では少し落ち着いた雰囲気になり高級感が感じられます。
・マット紙
画用紙のようなザラつきのある紙です。
名刺やはがきのような安価なものから、高級なものまで様々ですが基本的には発色や階調再現性、解像感は何も考えずに印刷しても上記用紙に比べると劣るので使い方が非常に難しいです。
場合によっては和紙なんかもこのカテゴリに含むこともあります。
上記に共通して言えることは安価で、展示用のものでもA4で1枚あたり~50円程度で購入することができます。
ファインアート紙
各社定義はやや異なるところがありますが、ファインアート紙は主にはコットンやαセルロースといった天然素材を漂白せずに使用した用紙を主に用いています。
なぜわざわざこのような紙を用いるかというと、写真もアートという領域に昇華させるには保存性が重要になってきます。
例えば美術館に寄贈するならば、むこう数十年は作品としての価値を維持できなければ話になりません。
しかしみなさんご存知のとおり、プリントした写真は経年で退色してしまいます。
そういった中でも50年、100年とインクジェットプリントを長持ちさせるために重要な要素のひとつとしてはPHが中性であることが必要要件です。
通常の写真用紙は紙を科学的に漂白したり、コーティングしていますが、その薬品が見た目がよくても保存性には悪い影響を与えるそうです。
このファインアートペーパーというものは、そういった経年劣化を極限まで抑えるよう作られており、美術館に所蔵される為にはこのファインアートペーパーを用いなければならないという要件になっているほど、写真作品には重要な要素になっています。
欧州で何百年も前のコットンの植物紙美術作品や書物が未だに現存していることから、保存製が優れていることが証明されています。
特に古くから写真用紙として用いられてきたバライタ紙の様な光沢感のあるものから、マットも水彩画、銅版画、キャンバス調、和紙等様々な種類があり、適切な選択と印刷は非常に熟練の経験を要するものと思います。
個人で使用する上ではその保存性も決して不必要ではありませんが、イメージの仕上がりそのものが、単調な写真用紙と比較して美しいのがファインアート紙の一番の魅力です。
価格はA4で2~300円程度のものが多く、貴重な素材を用いたものでは1000円を超えるものもあります。
おすすめの写真用紙
ここでも独断と偏見で私が好きな写真用紙をご紹介します。
ピクトリコ
三菱系のメーカーで、安価で、印画紙からアート紙までかなりのバリエーションがあるので普段遣いにおすすめです。
ピクトリコプロ ソフトグロスペーパー
タイプ:半光沢(バライタ調)
安価で質感も素晴らしいです。
アート紙を送る拍車跡(ミシンの縫い目のような跡)がインク乾燥後も少し気になる以外はとても良いです。
ピクトリコプロ セミグロスペーパー
タイプ;半光沢紙(微粒面の印画紙)
印画紙なので植物紙ではありませんが、光沢も適度でラスター(表面のザラザラ感)も良いです。
これとイルフォードのサテンフォトはほぼ同じ質感でよく使っていますが、このピクトリコは何が良いかといえば、ヨドバシとのコラボレーション品が安価に売っていることです。笑
ヨドバシ限定ですが、このセミグロスの隣においてあるのですぐに分かると思います。紙が10枚くらいお得です。
ピクトラン
局紙
タイプ;ハイブリッド(マットでも光沢でも素晴らしい)
この紙は日本の紙幣と同じだそうで、少し特殊ですがかなり気に入っています。
質感はマットなのですが紙には光沢感があり、マットとして見ても半光沢として見てもどちらでも使えます。
バライタ調等の半光沢紙に印刷する場合にはキャノンではクロマオプティマイザーというインクの保護と黒の再現性の向上の為の透明のインクをコーティングするのですが、これをかけると独特の模様が浮かび上がってきてとても美しいです。
勿論マット設定でインクだけ載せても素晴らしいです。
局紙バライタという似た名前のものがありますが別物なのでご注意ください。(そちらも高価だが素晴らしい)
ハーネミューレ
私がメインで使っているのがこのハーネミューレで、なんと400年以上の歴史を持つドイツのメーカーです。
ファインアート紙に特化しており、恐らく最もアート紙の種類が多いです。
アート紙のスタンダードといってもいいでしょう。
Photo Rag
タイプ;マット
ハーネミューレの代表製品で、マットでありながらも素晴らしい再現性を有しています。
コストはかさみますが、この紙で写真の現像を追い込むのがとても好きです。
薄手と厚手があります。
Photo Rag Baryta
タイプ;半光沢(バライタ調)
適度な光沢感と紙の質感があるので、非常に使いやすいです。
最初に買うべきハーネミューレはこれだと思います。
FineArt Baryta satin
タイプ;半光沢(バライタ調)
フォトラグに比べてわずかに質感がダイナミックな感じです。サテンは細かい光の粒子が付くので、暗部やハイライトがきれいに出るので気に入っています。
German Etching
タイプ;マット
美しいテクスチャーのマット紙です。
かなり荒い質感で、ヒストグラムで見ると20%以下や80%以上はすべて潰れると思ったほうが良いかもしれませんが、ハイコントラストの特にモノクロとの相性が素晴らしいです。
他にも素晴らしい紙がたくさんあるので、ハーネミューレの用紙の違いについては別の記事にまとめます。
写真作品はなぜ紙なのか、写真作品について
最近ではNFTも流行っているように、このデジタル時代には写真を紙もディスプレイで見るも正解はないと思います。
特にデジタルではそもそもフィルムのスキャンデータとは異なり元がデジタルデータで生成されているので、sRGBを再現する映像装置であるディスプレイでみても、デジタル次元内で見れば自然なことです。
最近流行の兆しを見せているNFTは、デジタル内にのみ存在するアートです。将来的には概念的に可視化できるのかもしれませんが、現状ではPCのモニターを介してしか見ることができません。
逆にデジタル写真におけるプリントは、そのsRGBをインクを用いてアナログ変換し、紙に擬似的に表現していると言ってもいいと思います。
じゃあなぜ紙なのかといえば、逆にだからこその紙なのかなと。
私達が今存在している自然は人間によらないので、同じく人間によらない原子で構成された紙の方が高い親和性があります。
ディスプレイの絵は透過光で紙の印刷物は反射光といい、透過光は自分が発光して色を発色させるのに対し反射光はその名の通り環境光が反射し色情報が網膜まで届くという仕組みです。
この透過光と反射光は人間の脳での捉え方が異なると、メディア論として纏められています。
保存製の観点で言えば、デジタル世界のデータはすべてが人間の手中にあります。
データの保存製という観点でみても、ローカルのHDD、クラウドストレージ、ブロックチェーンと分散技術が発展したところで、コンピューターという管理者不在で自立して存続することはできません。コンピューターは紙より寿命が短い。
また、もともと写真というのは画像情報をコピーする為の道具で、アート作品としての写真の歴史はあまりありません。
元来絵画が、記録としての役割を果たしていたものが写真に取って代わられて表現手法が主となりましたが、写真も同様にコモディティ化し文字や動画といった様々な最適なメディアが自由に使えるようになったからこそ表現としての写真を楽しめるようになってきたのではないでしょうか。
勿論、難しく考える必要も無いと思います。
家に飾れればそれで十分、きれいな写真が撮れれば嬉しい、家族のために写真を撮りたい、それだけの話です。
そこから紙にする技術が身につけば、展示会に参加してみたり自主制作で写真集や雑誌を出版してみたり、なんなら販売してプロの写真作家になってみたりと更に自身の写真活動にも幅が出るのではないでしょうか。
少なくとも、私の場合は紙の経験によってより写真に対する理解が深まったなと感じています。
アマゾンでフレームを3つ4つ注文して、自宅の壁にとりあえずかけてみてください。
写真がもっと楽しくなること間違いありません。
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